日経ネットビジネスに掲載してもらった記事を転載します。
●大学生、紅茶専門店で起業、開始1年で月商100万円(1999年時点)
紅茶専門店「京都 SELECT SHOP」は、紅茶の輸入から買い付け、販売、配送まで学生起業家の中野光崇氏が1人で切り盛りし、月商100万円(年商1200万円ベース)を達成した。(1999年時点)
●海外旅行の資金稼ぎが発端
店主の中野氏(写真左)は、京都市内にある立命館大学の4年生(1999年時点)である。最初に中野氏が電子商店に興味を持ったのは、98年1月のことだ。ある雑誌のインターネット通販に関する記事を読んで、自分も電子商店を開いてみたいと考えるようになったと言う。ただしその当時は本格的な商売をしようと考えていたわけではなかった。
その雑誌を読んだ直後、中野氏は春休みを利用してネパールへ海外旅行(バックパッカー)に出かけた。
紅茶の仕入れ旅日記 http://www.verygoodtea.com/cat-travel/siire.html
ネパール編 http://www.verygoodtea.com/shop/travel/nepal.html
バックパッカーでたどり着いたネパールには、日本では見かけないような物珍しい商品がいろいろ売られていた。「日本に持ち帰ってWebサイトで売ったら、海外旅行の代金の足しになるかも知れない」と考えた中野氏は、異国情緒あふれる手編みのペンケースとネパール産紅茶を少々買い込んだ。帰国後、98年3月にSELECT SHOPをオープンさせ、さっそくネパールで“仕入れた”商品を売りに出した。
当初中野氏は、ペンケースが売れるだろうと予想していた。「紅茶と言えば英国というイメージが強いので、ネパールの紅茶には正直言って期待していなかった」からだ。ところが、予想に反してペンケースはあまり売れず、一方の紅茶はわずか1ヵ月半で完売した。購入者は12、3人で、売り上げは3万5000円と決して大きな数字ではなかったが、中野氏が予想していた以上の手応えだった。
●商品選択過程を公開し信頼を獲得
現在はネパールのほか、インドの商社とも取引を開始した中野氏は、現地での買い付け以外に輸入も始めた。その際40~50種類にものぼるサンプルが送られてくる中で、自らテイスティングし2~3種類を選んで発注する。「夕方サンプルが届けば徹夜になる。仕入れる紅茶を決めてメールで注文しても、既に売り切れている場合もある」と苦労の多さを漏らす。 しかし、そんな苦労さえも営業に利用している。サンプルの出来不出来をストレートにメールマガジンに記す。「ユーザーにとっても、こちらが50種類の中から2種類だけ選んだという過程が分かるから、安心して購入できるはず」という考えからだ。 また海外との商談が成立すれば、即電子商店にも告知する。これに「通」が反応し、リピーターを中心にユーザーは入荷前から紅茶の購買意欲をかき立てられる。実際、9月1日に発売した紅茶は、3日間で90人からの注文が入り、30万円以上が売れた。リピーターは70人にものぼった。
●電子商店か就職か悩む
中野氏は、SELECT SHOPの運営のすべてを自宅で行っている。実際自宅のワンルームマンションの中は、商品がいっぱいで足の踏み場もない。中野氏も「プライベートと仕事との“けじめ”が難しい」と言う。そのために現在、事務所を借りる手はずを整えている最中だ。現在同氏が打診しているのは、会社を興したばかりのベンチャー企業を支援している団体が経営する事務所。部屋がいくつかのブースに分かれており、そこを複数の企業で共有利用する。 その一方、中野氏は今後の進路に悩んでいる。大学4年生の中野氏は、通販を手がける大手企業から内定をもらっている。企業に就職して電子商店運営と“2足のわらじ”を履くか、それとも電子商店の経営に専念するか。「企業に就職していろいろ学びたいという思いもある。でも、就職したら仕事が忙しくなり、メールマガジンの執筆や買い付けなどの時間が減ってしまう」また、内定先の企業からは、そんな思いを察してか「電子商店を丸ごと買収してもいい」という申し入れも来ている。年収も新卒では考えられない高い額を提示されているというが、来年4月まで、中野氏の悩みは続きそうだ。
●メールマガジンで「うんちく」を語る
紅茶は一種の「うんちく商品」で、詳しい商品説明なしで売れるものではない。そもそも、紅茶は欧州経由で日本に入ってくるスタイルが定着している商品だが、実際に現地で紅茶が収穫されるわけではない。アジアで獲れた茶葉が欧州に出荷され、箱詰めなどの加工を経て日本に入ってくる。「だから、本当においしい紅茶は原産国にある。その上紅茶は、どの茶園で、どの年の、どの季節に収穫されたかが大きな意味を持ち、2度と同じものは生産されない」(中野氏)。電子商店でEC(電子商取引)事業を手がけるには、商品情報を発信してユーザーの理解を高めることは、重要な意味を持つ。
あとは、その情報をいかにしてユーザーに読んでもらうか。メールマガジン開始前は1日のWebへのアクセス数は10人程度で、そのうち商品情報までクリックしてくれる人はかなり少なかった。中野氏は「電話料金の高い日本では、Webに情報を盛り込んでも読んでもらえない」と分析し、思い切ってメールマガジンに営業の主体を切り替えた。「一度送信すれば電話代がかからないメールマガジンなら、気にせずに読んでもらえると思った」という予想は当たり、今や欠かせないツールになっている。
メールマガジンを5種類発行しているのは、過去の失敗から得た教訓を生かしたものだ。
実は中野氏は以前、1種類のメールマガジンを週に3回発行していた。その時、読者数が減ってしまった。そこで、異なる内容のメールマガジンを5種類発行することで、ユーザーが自分に希望に合わせて購読できるようにした。「頻度が高いと、迷惑する人がいることが分かった。自分の必要なメールマガジンにだけ登録してもらうことで、こちらも気兼ねなく発行できる」(中野氏)
もちろん読者を増やす工夫には余念がない。例えば月に3回行っているプレゼント企画では、1回につき300人程度の応募がある。その際、応募者が必要事項を記入して送信すると、送信完了の画面が現れる。そこには、応募のお礼と共に、メールマガジン購読申し込み用のフォームが現れる。
●5種類のメールマガジンで集客
SELECT SHOPの「主力営業ツール」は、中野氏自らが執筆する無料の電子メールマガジンだ。
「電子メールマガジンがあったからこそ、ここまで売り上げを伸ばせた。もしこのツールがなかったら、売り上げは現状の20パーセントくらいに過ぎないのではないか」ー。
そう胸の内を明かすのは紅茶専門店「SELECT SHOP」の中野光崇氏だ。電子商店を立ち上げてから1年3か月を経た今年6月には、ついに月商100万円を突破した。(1999年)
「このまま行けば今年の年間売上高、年商800万円は堅い。もしかすると年商1000万円を超えるかも知れない」と意気盛んだ。彼の年収は不詳。
「まぐまぐ」(http://www.mag2.com/)のシステムを利用し、主要産地の紅茶情報や仕入れ情報に商品情報を加えて登録したユーザーに送信する。1年前と比べてメールマガジンの発行部数は3倍に増えたが、それに比例するように売上高も3倍になった。
現在、SELECT SHOPが発行しているメールマガジンは全部で5種類。最も発行部数の多いメールマガジンで4500部、5種類を合計すると約1万部を発行している。メールマガジンは、紅茶のおいしい飲み方、紅茶の歴史などのうんちくをつづった「紅茶や紅茶」、販売している紅茶のテイスティングの感想を記した「SELECT SHOP通信」、紅茶に合うお菓子のレシピを紹介する「紅茶やお菓子」、当日の朝飲んだ紅茶の感想をつづった「今日のモーニングティー」、買い付けに外国に行った時のみ発行する日記形式の「紅茶や旅日記」の5つ。発行は不定期だが、5つ合計すると1ヵ月に10通を超える頻度で配信している。
「本腰を入れて販売すればもっと売れるのでは」と中野氏は意を強くした。だが、Webを開いただけではそう多くの人には見てもらえないとも認識していた。「最初は量が少なかったので検索サイトに登録するだけでもさばけたが、今後販売量が増えたら売り切れないだろうと考えた」。
●買い付け先からも情報発信
中野氏は1人でSELECT SHOPを切り盛りしているので、買い付けで日本を離れる時は電子商店を休業せざるを得ない。ともすると、顧客離れを招きそうだが、買い付け先のネパールからメールマガジンを配信することで問題を解決した。外国人向けのインターネットカフェーから送信するのだが、日本語環境がないためローマ字表記になる。内容も「ii koucha ga te ni hairisoudesu」といったものだが、ユーザーにとってはネパールからほぼリアルタイムで「現地直送の情報」が送られてくる。紅茶への購買欲求も高まろうというものだ。
中野氏は、ネパールからユーザー100人に対し絵ハガキも出した。手間はかかるが、代金はハガキ1枚25円、総額でも2500円と割安だ。実際に絵ハガキ送ったユーザーのうち40人が紅茶を購入したという。
加えて、帰国後その旅の様子を電子商店上にアップし、ユーザーが楽しみにするほどの人気ページに仕立て上げた。ユーザーにとっては、実際にどんな相手から商品を買い付けたかがわかるだけでも楽しい。
(日経ネットビジネス 1999年11月号より)